目黒区の司法書士の増田朝子です。
お客様から、賃借人の原状回復義務についてお問合せがございました。
なんでも、5年住んでいた賃貸マンションを退居する際、クロスの全面張替え費用を
全額負担するように管理会社から請求があったとのことです。
理由としては、賃借人はヘビースモーカーでタバコで壁が汚れたので
クロスの張替えが必要になったから、とのことでした。
賃貸住居の退去時の原状回復義務については、トラブルが増加しているため、
平成10年に当時の建設省(現国土交通省)が、【原状回復をめぐるトラブルとガイドライン】
を取りまとめており、最近では平成23年に改訂がなされています。
こちらで、一般的な基準が確認できます。
【原状回復をめぐるトラブルとガイドライン】
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
建物の賃借人の支払う賃料には、賃借人が通常の建物使用をした場合に
生じる賃貸物件の劣化や価値の減少について、たとえば修繕費等の必要経費が
含まれています。よって、賃借人が契約終了時に履行する原状回復義務は、入居時に状況に戻すと
いうことではなく、通常の建物使用による価値の減少分(これを「通常損耗」といいます。)を超える
部分についての現状回復義務となります。
タバコ等のヤニやにおいについては、ガイドラインによると
通常損耗を超える使用による損耗とされています。しかし、通常損耗を超える部分の使用に
よる損耗があった場合でも、それはすべての損耗を負担し原状回復しなければならない
ことを意味していません。
クロス全面の張替え費用について争われた事例では、賃借人の負担として認められたのは
1割程度にとどまるものもあります(神戸地尼崎支判平成21.1.21)し、
クロスの劣化は、当然通常損耗を含むものでしょうから、
全額賃借人の負担という請求があった場合は、交渉の余地があるのかもしれません。
ただ、契約によって『通常損耗補修特約』が付いている場合は注意が必要です。
これは賃借人が通常の使用による損耗も負担するといった特約です。
契約自由の原則からいうとこの特約も無効というわけではありません。
しかし、賃借人がどの程度この特約による負担義務の意思表示をしている等の有効性を
争う余地があります。